資金調達を経て、いよいよ事業を加速させるフェーズに入った製造業スタートアップにおいて、採用は最大の経営課題です。しかし、「技術力は申し分ないはずのエンジニアが、入社後わずか数ヶ月で離職してしまう」という事態に頭を悩ませている採用担当者は少なくありません。
結論から申し上げます。製造業スタートアップにおける採用ミスマッチの正体は、性格の不一致ではなく、「技術的スタンス(技術的課題への向き合い方)」の不一致にあります。
当編集部では、16年の現場経験を持つ元・半導体プロセスエンジニアの知見を軸に、Web系企業の手法とは一線を画す、材料化学・精密機器・半導体などのハードウェア領域特有の見極め方を体系化しました。この記事を通じて、現場エンジニアと人事が共通の言語で候補者を評価し、定着率を劇的に向上させるための実践的な知見を提供します。
[著者情報]
半導体Jobエージェント 編集部
製造業スタートアップの採用支援に特化した専門家チーム。16年のキャリアを持つ元・半導体プロセスエンジニアが記事の監修・執筆を主導しています。技術の現場を熟知しているからこそ可能な「技術要件の深い読み解き」を武器に、他エージェントでは難しい高精度のマッチング手法を発信。現場と人事のミスマッチを解消するための実践的な知見を提供します。
なぜ「技術は一流」のエンジニアが、スタートアップで早期離職してしまうのか?
大手メーカーで輝かしい実績を残してきたエンジニアが、なぜスタートアップの環境では力を発揮できずに去ってしまうのでしょうか。その背景には、「完成された量産工場」と「試行錯誤が続くスタートアップのR&D現場」における構造的な違いがあります。
例えば、大手半導体メーカーであれば、数千億円規模の最新鋭の製造装置が整い、プロセス設計のフローも厳格にマニュアル化されていることが一般的です。しかし、資金調達直後のスタートアップでは、ユーティリティ設備すら不十分で、中古の計測器を騙し騙し使いながら、データが足りない中で意思決定を迫られる場面が日常茶飯事です。
「計測器やSOP(標準作業手順書)が未整備な現場」において、前職の完成されたプロセスをそのまま持ち込もうとするエンジニアは、理想と現実のギャップに絶望してしまいます。一方で、スタートアップが真に求めているのは、設備やマニュアルの不足を「自ら手を動かして補完すること」を楽しめる人材です。
この「大手メーカー出身者が抱く設備環境への期待値」と「スタートアップ特有の泥臭い開発環境」の乖離こそが、早期離職を引き起こす最大の要因です。採用担当者様は、候補者のスキルセットだけでなく、「不完全な環境下で技術的課題にどう向き合うか」という行動特性を鋭く見極める必要があります。
✍️ 編集部の経験からの一言アドバイス
【結論】: 候補者の「前職の設備環境」と「自社の泥臭い現状」の差を、面接の冒頭で包み隠さず、むしろ強調して提示してください。
なぜなら、私たちが見てきた多くの事例では、人事が「これから整える予定です」とポジティブに伝えすぎた結果、入社後に「計測器すら満足にないのか」という不満を招いているからです。「今は中古の装置しかなく、自ら修理して立ち上げる必要がある」といった過酷なリアリティをあえて伝えることで、その状況を「技術者として腕が鳴る」と捉える人材だけを確実にフィルタリングできます。
性格ではなく「技術的スタンス」を見抜く。製造現場の言葉で定義するカルチャーフィットの正体
製造業スタートアップにおけるカルチャーフィットとは、単なる「人柄の良さ」ではありません。当編集部では、「技術的スタンス(技術的課題への向き合い方)」こそが、ハードウェア領域におけるカルチャーフィットの正体であると断言します。
採用担当者様が現場のエンジニアと目線を合わせるためには、抽象的な人事用語を、半導体プロセスや回路設計の現場で起こる具体的な行動へと「翻訳」することが不可欠です。例えば、「主体性がある」という言葉をそのまま評価基準にしても、面接官によって解釈が分かれてしまいます。この抽象的な言葉を、「回路設計のミスが発覚した際、他部署のせいにせず、自らオシロスコープを当てて原因究明に動く姿勢」と定義し直すことで、初めて客観的な評価が可能になります。
このように、技術的スタンスを「トラブル発生時の具体的な振る舞い」に落とし込む手法によって、人事と現場エンジニアの評価軸を完全に統一することができます。

現場エンジニアと目線を合わせる「行動面接(STAR手法)」の実践。製造現場特有の質問例
候補者の技術的スタンスを客観的に判断するために、当編集部が推奨しているのが「STAR手法」を用いた行動面接です。STAR手法とは、Situation(状況)、Task(課題)、Action(行動)、Result(結果)の順に質問を重ねることで、過去の具体的な行動から未来のパフォーマンスを予測する手法です。
特に製造業スタートアップにおいては、「不確実耐性」を検証するための技術的エピソードを深掘りすることが重要です。例えば、FPGA設計や組み込みソフトウェア開発において、予期せぬバグが発生し、納期が迫る中でどのように優先順位をつけたかを聞き出します。
Web系企業の面接でよく使われる質問と、製造業スタートアップで真に聞くべき質問の違いを以下の表にまとめました。
📊 比較表:業界・フェーズ別で見極めるべき質問の対比
| 評価項目 | Web系企業の一般的な質問 | 製造業スタートアップで聞くべき質問 |
| 課題解決力 | 「開発中、技術的な壁に当たった時にどう解決しましたか?」 | 「試作機の歩留まりが目標に届かない時、限られた計測リソースでどう原因を特定しましたか?」 |
| 柔軟性 | 「仕様変更があった際、どう対応しましたか?」 | 「材料化学の実験データが予想と反した際、仮説をどう組み替え、次の実験を設計しましたか?」 |
| 主体性 | 「自ら提案して改善したことはありますか?」 | 「設計図に不備を見つけた際、担当外であっても自ら修正案を作成し、関係部署を巻き込みましたか?」 |
このように、STAR手法を用いて技術的背景に基づいた行動を深掘りするアプローチによって、候補者が自社の現場で再現性を持って活躍できるかどうかを、高い精度で見極めることが可能になります。
FAQ:現場の「感覚的な評価」をどう仕組み化すべきか?
Q: 現場のエンジニアが「スキルはいいけど、なんとなくうちのタイプじゃない」と言います。どう深掘りすればいいですか?
A: 現場が発する「なんとなく」という言葉の裏には、必ず具体的な技術的懸念が隠れています。採用担当者様は現場の面接官に対して、「もし候補者が入社して、装置の立ち上げに失敗した時、彼はどんな行動を取ると思いますか?」と問いかけてみてください。すると、「彼はマニュアルがないと動けないタイプに見える」といった具体的な懸念が言語化されます。その懸念を「不確実への耐性」という評価項目に紐づけることで、感覚的な評価を組織の知見へと昇華させることができます。
Q: 適性検査だけでカルチャーフィットは見極められませんか?
A: 適性検査は「性格の傾向」を知るための有効な補助ツールですが、製造現場での「技術的スタンス」までは判定できません。適性検査の結果で「慎重派」と出た場合、その特性が「品質管理において緻密な仕事をする」というプラスに働くのか、「スピードが求められるスタートアップで足かせになる」のかは、実際の技術的エピソードを面接で深掘りしなければ判断できないからです。
まとめ
製造業スタートアップにおけるカルチャーフィットの見極めは、単なる「人柄の確認」ではありません。それは、自社の技術的課題に対して、候補者がどのようなスタンスで向き合えるかを言語化し、検証するプロセスそのものです。
- 早期離職の主因は、大手とスタートアップの環境ギャップによる「技術的スタンス」の不一致にある。
- 抽象的な人事用語を、エンジニアリングの現場で用いる具体的な行動に翻訳する。
- STAR手法を活用し、過去の技術的トラブルへの対応から「不確実耐性」を読み解く。
これらのステップを踏むことで、人事担当者は現場と強固な信頼関係を築き、組織の成長を支える最高のエンジニアチームを構築できるはずです。
もし、自社だけで「技術的な翻訳」を行うことに不安があるなら、製造業スタートアップの採用支援に強みを持つ半導体Jobエージェントにご相談ください。
製造業スタートアップ特有の採用課題を解決
[参考文献リスト]
- 2023年版ものづくり白書 - 経済産業省, 2023年
- 中途採用の実態調査 - リクルートワークス研究所
- STAR手法による採用面接のポイント - HR NOTE, 2018年5月21日