資金調達を成功させ、いよいよ事業を加速させる製造業スタートアップの前に立ちはだかる最大の壁、それが「R&D人材の確保」です。製造技術者の有効求人倍率が2.18倍(2025年時点)に達し、大手メーカーとの獲得競争が極めて激化する中、従来通りの「条件提示」だけの採用では、一流の研究者を惹きつけることはできません。
結論から申し上げれば、優秀な研究者は「福利厚生」や「給与」といった条件以上に、その会社で向き合う「技術的課題の深さ」で入社を決めます。
当編集部は、16年の現場経験を持つ元・半導体プロセスエンジニアの知見を軸に、数多くの製造業スタートアップの採用を支援してきました。本記事では、文系人事の方でも実践できる、技術を「武器」に変えるためのR&D採用戦略を公開します。貴社の技術資産を「選ばれる必然」へと昇華させるための、具体的な「翻訳」の手法をぜひ持ち帰ってください。
[著者情報]
半導体Jobエージェント 編集部
製造業スタートアップの採用支援に特化した専門家チーム。16年のキャリアを持つ元・半導体プロセスエンジニアが記事の監修・執筆を主導しています。技術の現場を熟知しているからこそ可能な「技術要件の深い読み解き」を武器に、他エージェントでは難しい高精度のマッチング手法を発信。現場と人事のミスマッチを解消するための実践的な知見を提供します。
なぜ「普通の人事」の言葉では、一流のプロセス設計エンジニアに響かないのか?
多くの製造業スタートアップの採用担当者様が、「最先端の環境です」「やりがいのある仕事です」といった言葉を求人票に並べます。しかし、材料化学や電気回路設計の第一線で戦うプロフェッショナルにとって、「最先端」や「やりがい」といった抽象的な表現は「中身がない」と判断されるリスクを孕んでいます。
研究者が求人票で最初に見るのは、会社の雰囲気ではなく「自分が解決すべき技術的課題の難易度と具体性」です。例えば、単に「センサの開発」と書くのと、「微細な信号をノイズから分離するための、電気化学的な界面制御の最適化」と書くのでは、後者の方が圧倒的に研究者の知的好奇心を刺激します。
当編集部が過去に実施したヒアリングでは、優秀なエンジニアほど「人事の言葉が技術の核心に触れていない」ことに不安を感じ、選考を辞退する傾向があることが分かっています。技術主導型採用を成功させるためには、まず「人事の言葉」を「現場の言葉」へアップデートしなければなりません。

16年のエンジニア経験が明かす、研究者の魂を揺さぶる「技術的ブランディング」の極意
R&D採用戦略において、技術的ブランディングは『選ばれる必然性』を作るための核心的な手段となります。これは、単に自社の凄さを誇示することではありません。貴社が直面している「未解決の問い」を、候補者の専門性と紐付ける作業です。
例えば、光学デバイスのスタートアップであれば、「世界一のレンズを作っています」と語るのではなく、「ナノレベルの収差を補正するために、既存の物理限界をどう突破しようとしているか」というプロセスを公開します。研究者は、完成された成功物語よりも、「今まさに格闘している技術的フロンティア」にこそ、自分の居場所を見出すのです。
16年のエンジニア経験を持つ当編集部の視点では、この「技術の翻訳」こそが、大手企業との差別化における最大の武器になります。
✍️ 編集部の経験からの一言アドバイス
【結論】: 自社の技術を語る際は、「成果」よりも「制約条件」と「試行錯誤のプロセス」を言語化してください。
なぜなら、私たちが見てきた多くの事例では、研究者は「何ができるか」よりも「何が難しくて、それをどう解こうとしているか」という技術的背景に最も強く共感するからです。文系人事の方が現場のエンジニアに「今、一番頭を悩ませている物理的な限界は何ですか?」と問いかけることから、真の技術的ブランディングは始まります。

ミスマッチをゼロにする「技術要件の深掘り」実践ガイド:材料化学から制御工学まで
採用におけるミスマッチは、経営資源の限られたスタートアップにとって致命傷となります。特にR&D領域では、技術要件の読み解き不足が、採用コストの増大と早期離職の主因となります。
ミスマッチを防ぐためには、求人票(JD)の作成段階で、特定の技術領域における「刺さるキーワード」を正しく配置することが不可欠です。以下の比較表を参考に、貴社の募集要項が「エンジニアの視点」で書かれているかを確認してください。
📊 比較表:領域別:研究者に刺さるキーワードと避けるべき抽象表現
| 技術領域 | 避けるべき抽象表現(NG) | 研究者に刺さる具体的キーワード(OK) |
| 材料化学・電気化学 | 画期的な新材料の開発 | 結晶構造解析、界面インピーダンス制御、薄膜成長プロセス |
| 機械設計・構造解析 | 効率的な製品設計 | 剛性・振動特性の最適化、熱流体シミュレーション、公差解析 |
| 制御工学・組み込み | スムーズな動作の実現 | PID制御のパラメータ最適化、リアルタイムOSの実装、FPGAによる高速信号処理 |
| 生産技術・品質管理 | 高品質なものづくり | 歩留まり改善のための要因分析、統計的プロセス管理(SPC)、治具設計 |
結晶構造解析やPID制御といった具体的なキーワードを盛り込むことで、候補者は「この会社は自分の専門性を正しく理解している」という安心感を抱きます。また、面接においても、具体的な技術キーワードを軸に深掘りを行うことで、候補者の真のスキルレベルを正確に見極めることが可能になります。
製造業スタートアップのR&D採用に関するよくある質問(FAQ)
Q1: 文系人事の私には、現場の技術を深く理解するのは限界があります。どうすればいいでしょうか?
A1: 全ての技術的詳細を理解する必要はありません。大切なのは、現場のエンジニアから「技術の面白さ」を引き出す「翻訳者」としての役割に徹することです。「この技術が実現すると、業界の何がひっくり返るのですか?」といった、本質的な問いを現場に投げかけてみてください。
Q2: 現場のエンジニアが忙しく、採用活動に協力してくれません。
A2: 採用を「人事の仕事」ではなく「R&D部門の未来を作る投資」として再定義する必要があります。ミスマッチによる離職が現場に与える負荷(再教育の手間など)を数値化して提示し、最初から精度の高いマッチングを行うことが、結果的に現場の時間を守ることに繋がると伝えてください。
Q3: 大手企業に年収で勝てない場合、どう対抗すべきですか?
A3: 研究者は「意思決定の速さ」と「技術的裁量の大きさ」を重視します。大手では数年かかる試作サイクルが、スタートアップなら数週間で回せること、そして自分の専門性が製品の核心部分に直接反映されることを強調してください。
まとめ
製造業スタートアップにおけるR&D採用の成否は、技術をいかに「翻訳」し、研究者の知的好奇心を刺激できるかにかかっています。16年のエンジニア経験から断言できるのは、貴社の技術資産の中には、まだ見ぬ優秀な研究者を惹きつける「宝」が必ず眠っているということです。
抽象的な言葉を捨て、技術の深みに踏み込むことで、貴社の採用戦略は「選ばれる必然」へと変わります。
もし、自社だけで「技術的な翻訳」を行うことに不安があるなら、製造業スタートアップの採用支援に強みを持つ半導体Jobエージェントにご相談ください。
製造業スタートアップ特有の採用課題を解決
[参考文献リスト]
- 未来人材ビジョン - 経済産業省, 2022年5月
- A new era for industrial R&D in Japan - McKinsey & Company, 2021年
- エンジニア採用のミスマッチに関する調査 - 株式会社ハイヤールー, 2022年